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富山地方裁判所 昭和60年(わ)39号 判決 1985年6月28日

本籍

富山県高岡市横田町一丁目一五九番地

住居

同 県同 市横田町一丁目一番一一号

会社役員兼石材加工販売業

山岡利昭

昭和一五年九月三〇日生

右の者に対する所得税法違反被告事件について、当裁判所は、検察官門西栄一、弁護人前田亮知各出席のうえ審理し、次のとおり判決する。

主文

被告人を懲役一年及び罰金一、八〇〇万円に処する。

被告人において右罰金を完納することができないときは、金五万円を一日に換算した期間被告人を労役場に留置する。

この裁判の確定した日から二年間右懲役刑の執行を猶予する。

訴訟費用は被告人の負担とする。

理由

(罪となるべき事実)

被告人は、富山県高岡市横田町一丁目一番一一号ほか四か所に事務所、店舗又は工場を設けて石材加工販売業を営むものであるが、自己の所得税を免れようと企て、売上の一部を除外して他人又は架空名義の定期預金を設定するなどの方法により所得を秘匿したうえ、

第一  昭和五六年分の実際所得金額が別紙(一)脱税額計算書記載のとおり五、九五三万二一六円あったにもかかわらず、昭和五七年三月一五日、同県同市博労本町五番三〇号所在の所轄高岡税務署において、同税務署長に対し、総所得金額が二、五四七万三、八三四円で、これに対する所得税額は特別減税額を控除すると九四三万七、一〇〇円である旨の虚偽過少の所得税確定申告書を提出し、もって不正の行為により同年分の正規の所得税額三、〇四六万八、四〇〇円と右申告税額との差額二、一〇三万一、三〇〇円を免れ、

第二  昭和五七年分の実際総所得金額が別紙(二)脱税額計算書記載のとおり五、六〇四万九、二九九円あったにもかかわらず、昭和五八年三月一五日、前記高岡税務署において、同税務署長に対し、総所得金額が二、八二三万九、〇五一円で、これに対する所得税額は一、〇九四万二、二〇〇円である旨の虚偽過少の所得税確定申告書を提出し、もって不正の行為により同年分の正規の所得税額二、七八四万七〇〇円と右申告税額との差額一、六八九万八、五〇〇円を免れ、

第三  昭和五八年分の実際総所得金額が別紙(三)脱税額計算書記載のとおり八、五九八万五、〇八九円あったにもかかわらず、昭和五九年三月一五日、前記高岡税務署において、同税務署長に対し、総所得金額が三、〇三七万六、〇〇七円で、これに対する所得税額は一、二〇八万七、三〇〇円である旨の虚偽過少の所得税確定申告書を提出し、もって不正の行為により同年分の正規の所得税額四、八三三万五〇〇円と右申告税額との差額三、六二四万三、二〇〇円を免れ

たものである。

(証拠の標目)

凡例 59・6・19とあるのは昭和五九年六月一九日を示す。

判示事実全部について

一  被告人の当公判廷における供述

一  被告人の検察官に対する供述調書二通

一  被告人の大蔵事務官に対する59・6・19付、59・8・6付、59・8・9付、59・10・13付、59・10・29付(二通)及び59・11・19付、59・11・24付各質問てん末書

一  山岡百合子の検察官に対する供述調書

一  山岡百合子の大蔵事務官に対する59・6・19付、59・8・23付、59・8・24付、59・10・9付及び59・10・12付各質問てん末書

一  中村絢一の大蔵事務官に対する質問てん末書

一  大蔵事務官作成の59・11・5付二通(甲53、54)、59・11・7付二通(甲34、35)、59・11・10付二通(甲16、32)、59・11・15付二通(甲14、15)59・11・16付五通(甲44、45、48、49、50)、59・11・27付(甲22)59・11・28付二通(甲17、29)、59・11・29付及び59・11・30付各査察官調査書

判示第一の事実について

一  大蔵事務官作成の59・11・26付査察官調査書(甲19)

判示第二の事実について

一  大蔵事務官作成の59・11・26付査察官調査書(甲20)

判示第一及び第二の各事実について

一  大蔵事務官作成の59・11・16付査察官調査書(二通)(甲46、47)

判示第三の事実について

一  大蔵事務官作成の59・11・26付査察官調査書(甲21)

判示第二及び第三の各事実について

一  大蔵事務官作成の59・11・9付査察官調査書

(法令の適用)

被告人の判示各所為は所得税法二三八条一項に該当するところ、情状により同条二項を適用し、所定刑中懲役刑及び罰金刑を選択し、以上は刑法四五条前段の併合罪であるから、懲役刑については同法四七条本文、一〇条により犯情最も重い判示第三の罪の刑に法定の加重をし、罰金刑については同法四八条二項により各罪所定の罰金額を合算し、その刑期及び金額の範囲内で被告人を懲役一年及び罰金一、八〇〇万円に処し、右の罰金を完納することができないときは、同法一八条により金五万円を一日に換算した期間被告人を労役場に留置することとし、情状により同法二五条一項を適用してこの裁判の確定した日から二年間右懲役刑の執行を猶予し、訴訟費用については、刑事訴訟法一八一条一項本文により全部これを被告人に負担させることとする。

(量刑の理由)

本件は、被告人の個人事業の所得税逋脱の事案であるが、犯行の動機をみるに、事業を拡大伸長させるため資金の蓄積を図ったというのであって、極めて利己的な動機に因るもので同情の余地に乏しい。犯行態様も売上除外によるものであって三年間で合計七、四〇〇万円余りの所得税を逋脱したものであり、その金額も大きく、これらを銀行の裏口座に預金したり原石を購入したりして備蓄していたものである。しかも青色申告の記帳義務があったのに、極めてずさんな帳簿しか備えておらず、税理士の意見を聞こうとしなかったことから、本件犯行はまさに起るべくして起ったものと言える。以上本件一連の犯行の罪質・態様・動機を併せ考えると、本件は申告納税制度下における悪質な脱税事犯というほかない。しかしながら他方、被告人には交通事犯による罰金刑を除いては前科、前歴がないこと、本件発覚後は本件を反省改悛し、税務調査及び捜査に協力し、査察の結果に従って修正申告し、重加算税を含めて一億円余りを短期間のうちに納付していること、事業の一部を法人化し、経理の明確化をはかっていること等諸般の情状を斟酌し、主文の量刑とした。

よって、主文のとおり判決する。

(裁判官 大山貞雄)

別紙(一)

<省略>

別紙(二)

<省略>

別紙(三)

<省略>

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